重粒子線がん治療とは

放射線医学総合研究所の重粒子線がん治療装置HIMACは、さまざまな最先端要素技術と総合システムエンジニアリングを駆使し、従来の放射線治療の歴史を変える重粒子線を使用した治療専用の世界で初めての装置です。旧科学技術庁放射線医学総合研究所で開発され、平成6年3月に完成したHIMACは、まさに日本の加速器科学技術の結晶といえる装置です。

加速器エンジニアリング株式会社は、重粒子線がん治療装置の運転と維持管理をはじめ治療計画作成支援などを担う企業です。がん治療に効果を上げている粒子線がん治療装置は全国に普及しつつあり、この最先端システムの運転、維持管理におけるプロの技術が求められています。加速器エンジニアリング株式会社は、この分野でのパイオニアとしての期待に応え、巨大で精密な最先端の装置を通して、尊い生命を守るお手伝いをしています。

重粒子線とは、炭素やネオンなどの原子から電子だけを剥ぎ取ったものです。現在、放射線治療に使われるエックス線やガンマ線は、身体の表面付近で線量が強く、内部に進むに連れて弱まっていく特徴があります。これに対して重粒子線は、ある深さでのみ強く、その前後は弱いという特徴を持っており、その最大線量の部分をがん病巣に合わせれば、周辺の正常組織への影響は少なくして治療を進めることができるのです。つまり、がん細胞だけを狙い撃ちすることができ、放射線(エックス線やガンマ線)では困難だった深部がんの治療も可能となります。重粒子線が、がん治療の切り札とされるのはこういった特徴によります。しかし、重粒子線は切れ味の鋭いメスであるだけに、その適用には極めて高度な技術が要求されます。与えるエネルギーの調整やビームを振ることにより標的に正確に最大線量を合わせることなど、さまざまな技術が求められます。

<粒子線治療の特徴>

  • がんの狙い撃ちが可能
  • 正常細胞への影響が少ない
  • がんの殺傷力が強い
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  • 患者の負担軽減
  • 放射線抵抗性の難治性がんにも有効
  • きらず、痛みを伴わない

昭和56年以来、日本の死亡原因第1位のがん。厚生労働省の統計によると約3割が、がんで死亡しています。現在、がんを治療する主な方法として、外科療法、放射線療法、化学療法があり、がんの種類や進行状況によって適切な方法がとられています。放射線療法の中でも重粒子線を用いた治療は、がん細胞に対する破壊力が大きく、かつ正常細胞への影響が少ないという点で、従来の放射線治療に比べ効果的な治療方法といえます。

加速器エンジニアリングは、世界初の重粒子線がん治療装置でビームを発生させ、コントロールし、その性状を確認できる加速器の運転により、重粒子線による先進治療の現場で重要な役割を担っています。

HIMACは世界初の主加速器(シンクロトロン)二層構造を中心とし、それを構成する機器類は体積37万m³の放射線遮蔽を施した巨大な建屋の中に設置されており、がん治療の期待を担って日夜運転されています。このHIMACの治療ビームの供給は、万一のシステムダウンも許されません。また、HIMACのオペレーションとメンテナンスには、放射線をはじめ、物理計測、ビーム解析、マイクロエレクトロニクス、メカトロニクス、光学測定、電磁気計測、超高真空、高周波、冷却、制御システムなど幅広い領域の技術が必須です。特に、HIMACは強力な放射線発生装置でもあり放射線の発生、照射、計測、遮蔽などの放射線取り扱いについて高度の技術が要求されます。

当社は、これらの要求される技術をベースにした統合的な装置管理のためのシステムエンジニアリング技術を提供。重イオンの生成から加速、ビームの輸送、照射野の形成などにおいて、医療の厳しいニーズに対応したビームの安定性と再現性に高度の加速器運転技術で応えます。このために、日常的に行われるさまざまな機器・設備の調整や維持、トレンドデータの監視、ビームラインの真空の保持、大電力装置や高電圧・高周波電源の高レベルの管理、各種電磁石の調整、ビームモニターの調整をはじめ、各種機器の性能の維持、予防的な部品交換など、精緻な治療ビームの安定性と再現性を生み出すための多様な保守・維持作業を実施しています。こうして蓄積されたノウハウにより、装置の異常や故障等の場合のスピーディーな対応はもとより、長年にわたって蓄積されたビームのパラメータ履歴データや、フィールドの実績から得た高度な技術力を駆使して、がん治療ビームの質の確保と向上に貢献しています。

HIMACは、幅65m、長さ125m、地上16m、地下20mの建屋に収納された巨大ながん治療装置です。治療室に至るまでのビームの流れは次のとおりです。重イオン源で、治療に使う重粒子をイオンとして発生させます。この重イオンを入射器へ送り、2種類の直線加速器(RFQライナック、アルパレライナック)で光速の約11%まで加速させます。さらに主加速器(シンクロトロン)で光速の約84%(1秒間に地球を6.3周する速さ)まで加速させ、治療照射装置に送ります。

HIMACのイメージです。照射室の一つでは垂直と水平の2方向から照射でき、より効率的な治療が可能です。さらに、物理汎用照射室では腫瘍学に必要な放射線物理学の研究ばかりでなく、物理学と他分野の基礎研究も行われます。 2次ビーム照射室はRIビームによる診断と治療を行うことを目的にしています。生物照射室は小型および中型の動物による放射線生物学研究を行います。このような大規模な垂直のビームラインは世界に例がなく、加速器なども含めすべての機器が±0.5mm以内という高精度で据え付けられています。